独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
『まったく白兎は…もういいさ、君はアリスと喋らないといい。気をつけてね、ウサギはエロいから近づくと妊娠するよ』

『てめッ!何言ってるんだよ!!』

『アリス、よく聞くんだ。ウサギはたまに人間に発情するんだよ。想像妊娠だってするんだ。妊娠している雌兔に襲いかかったり、出産後に盛ったり大変なんだよ!』

『…お前…俺を変質者扱いするな』

『あ、ごめんごめん。ウサギは寂しいと死んじゃうもんね…構ってあげなくてごめんね、白兔』


二人の間に険悪な雰囲気が流れ、今にでもティーポットを手にとって熱湯をぶちまけそうだ。

それを止めさせる為、ティーテーブルを強めに叩いて立ち上がる。

小さな私はなけなしの勇気を振り絞り、声を張り上げた。


『う、…ウサギは…!…ウサギは、縄張り意識が強くて、争いを避ける習性があるから…ッ…寂しいから死ぬなんてこ、と…は…ない…と、…思います…』


語尾が小さくなっていき、自信がないように椅子に座る私。

顔を真っ赤にして俯き、ティーカップに唇をつけて啜りながら皆の様子を伺う。

私をフォローする様にハートのジャックが立ち上がり、いつもより大げさに笑い声を上げた。

 
『あはは、これは一本取られたな。アリス、君はウサギに詳しいんだね』

『…余計な事を』

『ご…ごめんなさい』

『悪かったな…その…馬鹿にして』

『え、あ…ううん。平気。私の方こそいきなり来て…驚かせちゃったみたいだから』

『別にいい、気にするほどの事でもないからな』


腕を組んでそっぽを向く白兎を見て、眠りネズミが『顔が赤いのですよ?』と追い討ちをかけてしまう。

それを乱暴な口調で誤魔化す白兎が可愛らしくて、私も笑いを抑えきれずに笑ってしまった。

その様子をさっきから面白くない物でも見るように、口を尖らせるハートのジャック。

和やかな雰囲気を断ち切るように、私の背中にぎゅうっと抱きついてきた。
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