独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
――ウサギのふれあいタイムも終了し、その場から離れた後ボート乗り場に向かう。

湖を泳ぐ水鳥たちに囲まれて、水面を切りながら進んだ。

独特の模様が水面に浮かび、透きとおる水の下には魚が泳いでいた。


「ここって水族館もあるのね。植物園も…」

「後で行ってみる?」

「ウツボカズラってあるかしら…」

「…楽しんでもらえて嬉しいよ。たとえ君が夢見心地に肉食植物の名前を口にしていてもね」


ピンク色の花びらが、ひらりひらりと舞い降りてくる。

それは水面へと落ち、まるで小さな船のように浮かんで流れていく。

うっとりとするぐらいの幻想的な風景を、絵画のように目に焼き付ける。

顔を上げれば見事なほどの青空が広がり、大きな白い雲がゆっくりと動いていた。

まるで雲は、空という海の中を泳ぐ船のように…どこか遠くへの旅路へ急いでいるようだった。


「あまり空ばかり見ていると後ろに転ぶよ?気をつけて」

「…貴方って、私のお兄さんみたいね」


オールを漕ぐカノンに、ぼんやりと思いついた言葉を投げかけてみた。

空を見るのをやめて、指を水に浸からせてゆっくりと持ち上げる。

花びらときらきら光る水の玉が私の指先から零れ落ち、ひじまで流れ落ちていく。

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