保身に走れ!

そうやって穂ノ香自ら会話に加わるなど、それはそれは今までのクラスだと考えられない歴史的快挙であった。

現在の三年三組だと、彼女が目立って喋るだけで男女から冷笑をプレゼントされてしまうが、去年は違ったのだ。


冴えない中学三年生は存在を押し殺す存在で、冴えない中学二年生は存在を許される存在で、

この二つの差は、世間一般、教室でリーダーシップをとる生徒の方針により独断で決まってしまいがちだ。


さて、親しみやすい雰囲気のクラスに気分をよくし、『じゃあ私が!』なんてキャラにもなく穂ノ香が唇を動かした時、

それを見計らったかのように、アシメヘアが似合う少年が最も大きな声で言ったのだ。


『どうぞどうぞ!』

彼をはじめ、周りのクラスメートらの笑顔に嘲笑といった要素はなく、

ただ合唱コンクールが面白くなりそうだから口角が上がっているようだったため、

穂ノ香はやられたと確信した。

そう、一人とびきり輝く笑顔の少年によるシナリオに踊らされた事実に気づいてしまったせいで、

彼は大人より心性が優れていると感銘するしかなかった。


『嶋がピアスで周防が仕切り屋な?』

指揮者を務める、それは音楽の成績や素行欄の評価が上がるため、通信簿がイマイチな穂ノ香にはビッグチャンスだったが、

何せ荷が重い話でもあった。

タクトを振るなど、客から注目されるはクラスメートの前に立たなきゃならないはでプレッシャーが半端ない。


いつもの穂ノ香なら反論したいのに、勇気がなくて黙って受け入れたのだろう。船場のように。

けれど、二年生の時はクラスの雰囲気が違ったのだ。


『ムリだよ』

下ばかり向く者が、同級生相手に意思表示をきちんとしたのは人生で初めてかもしれない。

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