保身に走れ!
とりあえず嶋が好きだからと一人でオルガンを弾いても好きな人の世界に入れないし、
二人は何も変わらないし、
結果、意味がない毎日を無駄に垂れ流している。
中学生、十五歳、受験生、青春、若さ、制服、思春期、――諦めるか夢を叶えるかの判断は受動態だと現状維持ばかりだ。
つまらない、面白くない、退屈、楽しくない、笑えない、不満ばかりが募る世界を飛び出してみたくなる。
右手を伸ばせば楽譜があって、楽譜は告白未遂の遺留品で、
告白には勇気が必要で、思い立った穂ノ香は走り出していた。
いつも決まった時間まで学校に残っていることを、長い片思いの能力で知っていたせいだ。
くたびれた廊下、疲れた階段、眠そうな壁、学校という場所は人が居てこそ想いを馳せられ、壮大な場所のだけで、
そこに誰も存在しないならば、未来に過去を懐かしむことはない。
男の子に話しかけるなんて、とてもじゃないが不細工に近い女の子には無理なイベントだった。
恋愛感情がなくとも異性というだけで意識してしまい、緊張がピークでどうしようもなかった。
けれど、もう足は希望に向かって今を蹴っていた。