保身に走れ!

常に清く明るく正しい人は、最初から立派なのではなく、

苦労を隠すために努力を重ねた結果が、毎日の作り笑いなのだと厭でも分かってしまいたくはなかった。


いつも冗談を言い、いつも誰かに注目され、いつも皆の中心にいるデキ婚は、

元々がそういう性格ではなく、そういう虚像なのだと穂ノ香は認めたくなかった。


そう、イケメンは生まれながらにイケメンで、美人は生まれながらに美人で、

秀才は生まれながらに秀才で、スポーツマンは生まれながらにスポーツマンで、

そんな彼らは地道に頑張ってはいけない。


理由は、神々しい方々が生まれつき恵まれているだけなら、穂ノ香に光が当たらないことは仕方がないことで流せるのに、

彼らが人一倍気を遣って生きているなら、穂ノ香が人の何百倍も現状を改善せず怠けていることになるからだ。


「ごめんなー! 俺反射神経良いからさ!」

大声で説明を続けるこの苦労人に比べ、穂ノ香はどれだけ前向きになったことがあるのか、考えなくてもゼロだ。


何もせずに、ただ毎日クラスメートに笑われる船場を見て今日も一日自分は安全だと安心し、

嶋を好きだと言いながら、ただただ好きな人を眺めるしかしていない。


三組が嫌だと嘆く割に、何もしない悪者は穂ノ香だ。

< 83 / 122 >

この作品をシェア

pagetop