Tricksters


城田部長は「すみません」と言ってから
一階の『1』というボタンを押した。


エレベーターには、二人きり。


「あの、城田部長の『城田』って本名ですか?」


「ええ? すみません、本名です。
もう五十年もこの名前です。すみません」


すみません、すみませんって
このおっさん謝り過ぎだ。

垂れ目で、優しそうな声と常に笑顔だから悪い気はしないが

腰が低すぎる。





エレベータが一階に着く。
目の前には白い壁。

城田部長は、「すみません。行きましょう」と言ってから、何の迷いもなく右側へ壁伝いに歩き出した。

すぐに突き当たり。
それを、左に曲がると
青天目ビルヂングの裏路地にでた。


「なんだよ! やっぱここか!」

すぐ横には、鎖に繋がれた老いぼれ犬が昼寝している。


「すみません。デメキンへは地下鉄で行きましょう。営業の基本です。すみません」



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