Tricksters
マンションの通路は、騒然としていた。
暗闇の中で、流れ星みたいに懐中電灯の明かりが行き交い。
武尊之頭取の怒鳴り声が響く。
停電でロックがかかったままになっているのか、他の住人が出てこない。
李花は、大丈夫か?
ただの停電だと思って呑気にピザを食べてくれているといいけど……
俺は、キャスターの二十億から目をそらさないように注意深く事の成り行きを見守る。
アイツが逃げ出せば、これは完全に窃盗罪。
どういう経緯で、愛人宅で二十億を受け渡すことになったのかは知らないが今後のスケジュールはSECOI警備会社の警備員と共に武尊之銀行の支店の金庫に運びだすことになっているらしい。
「お荷物をお預かりします」
後から来た警備員が声をあげた。
「何かの手違いじゃないかなぁ? 我々は、お客様からお預かりする案件の重要性を考えて三人で業務を行うように命じられた。
ああ、会社が更に二人の人員を配置したのかもしれない。
よし、サポートを頼む!」
アイツの懐中電灯が、新しく来た警備員の顔を照らした。
「しゃっ!」
そこで、俺は思わず大声を出しそうになって慌て耐えた。
アイツの咎めるような視線を感じる。
後からやってきた警備員が、佐伯社長だったからだ。