Tricksters

 李花のプクリとした唇が、一生懸命俺の唇に吸い付いてきた。

 細いウエストを抱き寄せると、体が熱を帯びてくる。


「それじゃ、李花お金返してくるね」


「やっぱり、一緒に行こうか?」


「ううん、じゅんちゃんにはこれ以上迷惑かけられないし。一緒にお金借りた女友達と二人で行くから大丈夫」



「気を付けてな、帰ってきたら続きしようぜ……」


 首筋に手を回して李花の舌をからめて、深いキスをする。


「ん……じゅんちゃん」と漏れた声に欲情する。


 このまま押し倒しちまうか?

 いや、返済が先だな。






 疼く体から李花が離れていく。引き止めたいけど、ぐっと堪えた。体に悪いな、これ。


「これ以上じゅんちゃんにくっついてると、狼さんになっちゃうでしょ?」


 李花は、イタズラした子供みたいにおどけてみせる。そんなところすら可愛い。


「顔洗っていけよ」


 寸でのとこで理性が勝利して、俺は澄ました顔をした。



「あ、本当だ。酷い顔……うん、そうする」


 台所で、バシャバシャと顔を洗ってタオルで顔をこする李花。

 ミュールのサンダルをつっかけて「すぐ帰ってくるね、じゅんちゃん」そう言って部屋を慌ただしく出ていってしまった。


 俺は、つぶれた布団に転がったまま手を振って見送る。



「はぁ……」


 本気で、馬鹿な女だ。


「ブランドのバックぐらい、金貯めて買ってやったのに……」

 
 残高が『¥508』と書かれた通帳は、布団の裏に隠してある。


「社長に言って、給料前借りしねーと……野垂れ死ぬ」



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