Tricksters
「俺は、人を苦しめる詐欺行為は行わない」


所長の声が、涙を含むように湿り気を帯びた。

男のくせに、泣くなよ。

そういうの一番イヤなんだよ。

俺のせいで、傷付いたみたいな顔すんなよ!



「わかったって!

わかったよ! 俺は、李花が心配なだけで
オマエは余計な例え話しただけなんだよな?

なら、問題ないだろ」


所長は、車の窓にコツンと額をつけて

捨て犬みたいな顔をする。

バスに乗ってる女の視線が、さっきから所長に釘付けだ。



「だからさ……
誤解とくために……


歓迎会、パァーとやっちゃおうぜ?

お互いに、もっと分かり合わなきゃダメだと思う」



「はぁ?」


なんで、歓迎会の話が出てくるんだよ!


運転しながら、もう一度バックミラーを覗くと

すでに所長は、背筋を伸ばして座席に座り直していた。

スーツの内側からタバコを取り出し口にくわえると、バックミラー越しにニヤリと笑った。


バスに乗った女は、窓に張り付く勢いで所長をガン見している。窓越しに口が『カッコイイ』と動く。


コイツ……
最初から泣いてねーし!



「淳一くんの新しいマンションでやろう」


所長は、高そうなジッポーでシュッと火をつけると深く煙を吸い込んだ。



「テメ……、なんで俺が新しいマンションに引っ越したこと知ってるんだよ!」


「細かい事は、気にするな」


「気になるじゃねーか!
知ってること、やったこと洗いざらい話せっ!」





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