別れの曲を君に(短編)
「今の曲、ショパンの『別れの曲』ですよね?」
「そう。別れの曲。……良く分かるね。好きかい?」
男の言葉に、綾はコクンと頷いた。
「はい。ちょっと切ない、優しい曲ですよね」
「今日は素敵な観客さんが出来たから、ちょっと真面目に弾いてみようかな。1曲、付き合って貰えるかな?」
男が、首を傾げて問う。
その声音はとても穏やかで、綾の耳に心地よく響いた。
――もう少しなら、まぁ、良いか。
この先生のピアノも、聞いてみたいし。
「はい。一曲ですね。良いですよ」
窓の外から差し込む淡い月の光を浴びながら、綾は、鞄を胸に抱えたまま、ピアノに近い席にちょこんと座った。
「それでは、君の好きな『別れの曲』を――」