HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
リードに繋いだ小さな犬は散歩がよほど嬉しいのか飛び跳ねながら先を急いでいる。
「待ってよ、モカ」と楽しそうに笑いながら女の子がリードを引っ張っている。
「ねぇ、ちょっと」僕が彼女の横に回って声を掛けると、彼女はびっくりしたように立ち止まり、怪訝そうに眉を潜めた。
警戒するようにリードを持つ手に力を入れる。
「あ、僕怪しい者じゃないんだ。ほら、さっきエミナさんのことで…」と言いかけたとき、
「ああ。エミナの先生…」と結香さんが合点したように目を開いた。
結香さんはこの先にある公園にいつもモカを散歩しにきているようだ。
今日も例外ではなく、彼女は小さな公園の古びたベンチに腰掛けるとモカを放し飼いにした。
「逃げていかないし、悪さもしないの。誰かに吠えたり噛んだりもしないし」
「へぇ、おりこうなんだね」
モカのふわふわした後頭部をちょっと撫でると、モカは気持ち良さそうに目を細めて僕の足元にすり寄ってきた。
「先生が好きみたい」
「僕もチワワを飼ってるんだ。4歳の女の子」
ケータイでゆずの写メを見せると、
「わ…可愛い」と結香さんは気を許したように頬を緩めた。
「モカは男の子。今年2歳になるんだ」
結香さんが持ってきたおもちゃのボールを遠くに投げると、モカは嬉しそうに走っていった。
さて…
引き止めたはいいけど、何から切り出せばいいんだか。
あれこれ考えていると、
「エミナが先生にあたしのこと何て言ったのか大体想像はつくけど、
あの子の話、鵜呑みにしない方がいいよ」
結香さんは無表情に言った。