HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
どれぐらい経っただろう…
数分?数十分??
時間の感覚がなくて、あたしは降りしきる雨の中、久米に問いかけた。
「ねえ」
久米はあたしの問いかけに返事を寄越さなかった。だけどあたしの方をじっと見つめているのが分かった。
「あたしに主演女優賞をちょうだいよ」
そう言ってやると、
「タイトルは?」
久米が乾いた声で聞いてきた。
あたしは久米の方を振り返り、久米の黒い目を見据えて答えた。
「Snow-White」
「きれいな衣装も、舞台セットも観客もなし?」
「衣装は制服。舞台セットは―――…そうだな、高校ってどう?観客は梶や保健医たち。
あんたが描いたシナリオでしょ」
最後の方は言葉が震えていた。
久米が僅かに眉を寄せて顔を伏せると、俯いたまま冷たいコンクリートの上に置いたあたしの指先に自分の指先をくっつける。
「……これで満足…?」
視界がぼやけているのは雨のせいじゃない。
「これで満足かって聞いてるの」
まばたきをすると、目尻に溜まった涙が一粒零れた。
久米は何も答えずに―――あたしの手にそっと自分の手を重ねてきただけだった。