マンション住民’s
第一階 -家賃五万五千円-

下階住民




深夜、もう三時過ぎくらいだろう。
仕事が終わるのは毎日この時間。

冷たい夜風に吹かれて、仕方なく家へと足を進める俺。
そんな風だけが、俺を認めてくれているようで。


筒井伸一


珍しくもなければ、どこにでもいるような名前。
“伸一”だって、親父の“伸雄”からきている。
それが俺の名前。

でも……嫌いじゃねーよ。

母さんが付けてくれた名前だから。


俺は母さん達の第二子としてこの世に生まれた。

母さんは、元々悪かった心臓の病気とかで、俺が生まれた翌週に死んだらしい。

当たり前といったら当たり前だけど、俺は母さんの事を知らない。
姉貴は「優しくて、可愛いママだった」って言ってるけど、見た事がないから頷く事も首を横に振る事も出来なかった。

写真すら残っていない。
俺の存在を否定してるみたいだな。

だけど、物には残ってない、俺の名前が母さんとの繋がり。


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