揺れない瞳
「あのなあ、結乃が今までどんな思いで過ごしてきたかも知らないで、あっさりと父親の再婚を応援するような事言うなよ。
まったく、昔から自分の事ばかりなんだからな」

低い央雅くんの声が響いて、その場の雰囲気が悪くなる。
お母さんは、そんな央雅くんを気にする事もなくお蕎麦を食べていて、そんな様子にも央雅くんはイライラしているみたい。
央雅くんのお父さんは、くすりと笑って何も言わず、二人の様子を眺めていた。慣れてるのかな。

「あ、すみません……私は、大丈夫なんで、父さんとはうまくやっていけるので、……央雅くんも、ごめんね」

私が父さんの結婚式の話題を出したばかりにこんな展開になってしまった。
和気あいあいとした年越しだったのに、あっという間にこんな重苦しい雰囲気に変わってしまったのは私のせいだ。

「結乃ちゃんが寂しい思いを抱えて大きくなったっていうのは芽依から聞いてるわ。まるで自分の過去を話すみたいに切なそうに教えてくれる芽依の表情は忘れられない。芽依にも寂しい思いを押し付けて私は自分の人生を送ってきたから。……本当、芽依はかわいそうだった」

「それがわかってるなら、どうして離婚して、芽依ちゃんと巧さんを引き離すような事したんだよ」

抑えながらも、お母さんを責めるような央雅くんの声、切ない。
お母さんは、そんな央雅くんの声にもひるむ事なく緩やかな笑顔で。

「だって、お母さん幸せになりたかったんだもん」

当たり前でしょ。
とでもいうような瞳で央雅くんを見返すと

「誰だって、幸せになる為に生きてるんだから。
そのために離婚したんだもん。仕方ないでしょ」

「でしょ……って、そんな勝手な……」

央雅くんの諦めたように気の抜けた声。
天井を仰いで、大きく息を吐いてる。

「そうだよな、母さんってそういう人だよな」

責めるような声は、ほんの少し弱くなって。
苦笑している央雅くんを、ゆったりと眺めてるお父さん。

そんなお父さんと目が会って、どうしようかと焦ってると。
小さく頷いてくれた。

『気にする事ないよ。いつもの事だから』

そんな余裕の言葉が聞こえた気がした。
お母さんの事も、央雅くんの事もわかってるんだな。

お父さんの笑顔に私も癒されて。

家族ってこういうものなのかもしれない。これからの私と父さんの関係の中でも同じような場面に出くわす時はあるのかもしれない。

そして、そんな日がきてほしいって思った。








< 357 / 402 >

この作品をシェア

pagetop