揺れない瞳


央雅くんが、私の中でどんどん大きくなってくる。
慣れてない優しい視線を向けられたり、その腕の中で温かさを分けてくれたり。
唇を重ねて、その吐息が甘いものだと教えてくれて。
私が味わってこなかったあらゆる感情を呼び起こすのは、どうしてなのかわからない。

偶然出会った日からの央雅くんの様子だけじゃ、どうして私の事を気にかけてくれるのかわからなくて、これからどうなるのかも全く予想できない。

女の子には誰にでも同じように接するのかも…わからない。

もともと恋愛経験の乏しい私だから、央雅くんのどんな態度にも右往左往してしまうのかな…。

両親とのあたりまえの生活の中で成長していたなら、いくつかの恋愛も経験して、失恋さえも乗り越えて、央雅くんとの出会いも強い気持ちで受け止められたかもしれない。

単純に、好きだとかそうじゃないとかっていう感情だけで動けたかもしれないのに。

成長と共に蓄えなきゃいけなかった感情の欠落を感じて、やっぱり泣きたくなる。

泣いてもどうにもならない事だとわかってる。

それでも、この頃頻繁に現れる父親の姿も手伝って、感情の波の幅が大きくなっているから。
心も体も、折れそうになってる…。
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