LOVE STORIES
　すると、今度は別の方から麻美を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ、麻美じゃん」


　その声を聞いた瞬間、全身が凍りつくような感覚を覚えた。

　今の麻美を作った張本人の男の声。

　麻美を裏切った元恋人、将太。

　その男の方を見ることが出来なかった。


「久しぶり。元気だった？」

「だあれ？」

　将太の横の女が嫌そうな声で訊く。

「昔、付き合ってたんだよ。本当に久しぶりだよなあ」


　この男は何を考えているのだろう。

　あんな別れ方をしておいて、どういうつもりなのだ。

　将太からすれば麻美など星の数ほどいる女の一人にすぎないでも言いたいのだろうか。

　だから、傷つけたことすら憶えていないのか。いや、傷つけたことさえ気付いていないのか。


「あ、もしかしてあの時のこと怒ってる？　悪かったって。もういいだろ」

　麻美は昔のことを思い出していると、無意識に睨みつけていた。

　それを見て焦ったみたいだ。

「ねえ、あの時のことって何？」

　女が訊く。

「大したことじゃないって。なあ？」

　将太は麻美に同意を求める。


　しかし、麻美は何も答えない。

　ただ睨みつけるだけだ。

　将太は困った風で、「何か、場違いみたいだったな」と言った。

「まあ、お前も彼氏が出来たみたいだし良かったよ。じゃあな」

　将太は連れの女の腕を引っ張って立ち去った。
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表紙・目次

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