Liberty〜天使の微笑み【完】
◇◆◇◆◇
「―――、…?」
声が、聞こえる。
体を揺さぶられている気がして、オレはゆっくりと、声のする方を向き目を開いた。
「た、橘くん、起きて!」
「ん~……くれ、は?」
間近でオレを呼ぶその人物の名前を呼べば、恥ずかしいのか、頬を少し赤らめている。
目を擦りながら体を起こせば、紅葉が時計を見せ、少し慌てていた。
「も、もう帰ってくるかもしれないの! だから、早く出ないと……」
あぁ~なるほど。
どうやら寝てしまったらしく、外はもう、すっかり日が暮れていた。
「もう少し……このままがよかったな」
「そ、それは同じだけど……」
「大丈夫、ちゃんと分かってるから」
あくびをしながら立ち上がると、携帯が鳴る音が聞こえる。どうやら紅葉のらしく、携帯を開くなり、紅葉は更に慌てた表情を浮べる。
「も、もしもし?――えっ。そう、なんだ……う、うん。分かった」
さっきまで慌てていたのに、今ではすっかり大人しくなっていて。何があったのかと訊ねると、紅葉はどこか恥ずかしそうに視線を逸らしながら、言葉を口にする。
「な、なんだか今日は、帰らない、って……!?」
その言葉を聞いた途端、オレは言葉を遮るように、紅葉を抱きしめていた。
帰らないなら……考えることは、一つしかないよな。
「――家に、泊まらない?」
耳元で囁けば、恥ずかしいのか、紅葉はすぐに返事が出来ないようで。それがまたカワイイなと思って、なんだか、いじめたくなる自分がいた。
「答えないってことは……肯定した、ってみなすよ?」
「え、えっと……な、何もしない、よね?」
「ん~ちょっとはするかも、ね」
そうやって言えば、また更に顔を赤らめて。
ホント、こうやって触れ合えるようになるなんて、思ってもみなかった。
「と、泊まるけど……ダメ、だからね」
上目遣いで言われ、今度はオレの方が恥ずかしい気持ちになってしまう。
こーゆうのを無意識でやられるから、こっちは保つのに苦労するよ。
「そんじゃ、オレ外で待ってるから」
玄関を出て、しばらく外で待つ。
空はもう暗く、肌寒い感覚が、夢にも見たあの時を想像させる。
「お、お待たせしました」
「よし、じゃあいこっか」
手を握れば、紅葉は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに、ほっとしたような笑みを浮かべていた。
「――そういえば」
車を走らせていると、ふいに、何か聞きたいのか、紅葉が話題を出す。
「起こそうとした時、すごく楽しそうな顔してたけど……何か、いい夢でも見てたの?」
「あぁ、見てたよ。――ま、ちょっと悔しかったりもしたけどね」
それでも、今はそれさえもいい思い出に感じる。こうやって出会えて、恋人になれて……うれしい気持ちが溢れてきたせいか、ふふっと笑みをこぼしていた。
「どんな夢だったか、知りたい?」
頷く紅葉に、ちょうど信号で車が止まったのを見計らい、すっと、頬に手を伸ばしながら顔を近づける。
「それはね――紅葉が、初めてオレに微笑んでくれた時のこと、だよ」
囁いたあと、そっと頬にキスをすれば、紅葉は触れられた部分に手を当て、目を見開く。
「え、駅でのこと、だよね? 私、ちょっとしか覚えてなくて……」
「しょうがないって。あの時、オレに対して何も思ってなかった訳だし。――あの瞬間から惚れたんだから、オレが覚えてて当然だろう?」
「も、もう! そんなこと言われたら、恥ずかしいのに……」
「だって、ホントのことだから」
こうやって話して、触れ合って。
同じ時間を共有出来る幸せに、オレはどんどん、酔いしれていた。
これからも、ずっと……。
そばにいたいと、ここまで思った相手は初めてで。
離すものかと、改めて、密かに決意をした。
Fin.


