社長の溺愛



ガタッ…ーーー




やっと起きたか…

家に帰ってきて翼を寝室に寝かせた俺は、翼がいつ起きても不安にならないようにとリビングにいた


今は夜の11時、彼女はずいぶん寝ていた



起きたことを確認しようと寝室に入ると、ベッドにいるはずの翼がフローリングに座り込んでいた



俺が入ってきたことに気がつくと

「慎…さん?」


と寝起きだからか少し人間味を帯びた声をかけられた


「慎でいいよ、よく眠れた?」


彼女は小さく頷いて



「次の家…」


と辺りを見渡した



「なんで床に座ってんの?」


最初に感じた疑問を聞いてみると、翼は酷くキツイ一言を発した


「いつも“誰か”と一緒に寝てたから、1人なことに驚いたの」




その『誰か』とは代わり行く飼い主を指していて、『いつも』という現実は俺に突き刺さった

翼は常にレンタルされていたのだ


そのたびに何をされていたのだろうか…



俺は目の前で座り込む仔猫に手を伸ばし、優しく引き寄せた



そして、なるべく分かりやすく俺はレンタルではないと説明した


「俺はレンタルじゃないから、もう次のひともいないし、次の家もない、ずっとここにいていい」


翼は一瞬だけピクッと肩を震わせると


「やっと…買われたんだ…」



酷く冷めたセリフを口にした



彼女がどう受け止めたのかは分からないが、俺には安心したようにも見えた



こうして翼との生活が始まった





< 28 / 413 >

この作品をシェア

pagetop