眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
「……あなた、それは何ですの?」


「…………すいません」









帰宅早々、僕は妻に謝罪している。






玄関前、靴さえ脱げない状況。





目の前には朝同様、綺麗に着物を着こなした妻の姿。

帰宅した夫に三つ指を付き、玄関にて出迎える妻の姿。




朝と違う所は、僕を見上げる妻の視線が痛い…と言う事だけだ。










疲れているのに。


腹も空いている。


早く着替えて夕食を食べたい。




脳内は、そんな欲求に支配されていた。




辛い心理状態の中、妻に謝罪をしている。







原因は、僕の手に下がる紙袋だ。










「私、去年あなたにお伝えしましたわよね?」

「はい」





聞きましたとも。





「でしたら、私が言いたい事も、おわかりになる?」

「………はい」








苦しい。






硬直した、妻の表情。




怒鳴らない、落ち着いた口調が、更に僕を困惑に誘う。



沈黙する僕を、正座の姿勢で見上げる妻。



淡い椿色の唇の右端が、微妙に引き攣っている。






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