眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
上弦の月。


半円の形は、愛らしい丸いカーブを右側に描いていた。





藍色の空、その高い位置にほんのりと慎ましく浮かぶ月は、穏やかな光を地上に、僕の上に注いでくれる。



まるで、月の内緒話を聞いているかの様。







コートのポケットに両手を入れたまま、僕は空を見上げた。







ゆっくりと漂う薄雲は、時折、月の影をぼやかせる。



その光景は、花嫁の髪にかかる柔らかなシルクのヴェールを連想させた。









花嫁ねぇ………。




瑞江さんも、新妻の頃はあんなに口うるさくなかったのに。


宗久さん、宗久さんと、何でも楽しそうにしていたのになぁ。





溜息は、白い吐息となり闇に溶け込んだ。






まぁ、妻も長くは怒っていられない人だから、こうして時間が過ぎれば、何事も無かった様になるだろう。








そんな風に思いながらも、妻は居なくなった僕に気付いてくれるだろうか…等と考えてしまう自分は、我ながら女々しい。


いや、子供並だな。





街灯の光、地面に細く伸びる自分の影を見つめながら、僕は再び歩き出す。







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