すべては数直線の上に+詩集
ギターが奏でるコードの音と男性の歌い声が、さきほどよりも大きく、しっかりとユウタの耳に入り込んでくる。
ユウタは確実にそこに近づいている。
歩道橋を下り、一歩一歩と進むごとにユウタは自分の心臓がより強く拍動していくのを感じた。
なぜだろう?
分からなかったが、ユウタは一歩一歩自分とその音との距離を縮めていった。

ユウタの予想通り、その男は駅にいた。
駅の前にはバスのロータリーがあり、そこにはベンチが幾つかある。
バスを待つ人たちのためだろうが、この時間バスはもう営業していない。
男はそんなベンチの一つに腰掛け、ギターを抱え、そして歌っていた。
それをユウタの視界がとらえた。

男は微かな光に照らされたベンチに座っている。
どこかの野球チームのロゴが縫い付けられたキャップを被り、キャップからは肩にかかるほどの長髪がはみ出していた。
暗くて色はよく分からないがチェックのシャツを着ていて、膝の部分が無惨に破れたインディゴのジーンズを穿いている。
足元はコンバースのスニーカーのようだ。
そのスニーカーの前の方には、蓋を開けた状態のギターケースが置いてあった。


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