すべては数直線の上に+詩集
「今すごくいいところなんだよ。」
僕はそう言うと同時に妻を見た。
妻も僕を見ている。

「わかったよ、行くよ。」

僕は妻にはどうも弱い、頼まれたら買いに行くしかないんだ。妻には逆らえない。まぁ、逆らう気もないのだが。
僕は妻に惚れている、いい響きだ。声に出してみた。

「僕は、妻に、惚れている。」

妻が手を止めてこちらを見た。

「あなた何言ってるの?あなたが私に惚れてることはちゃんと分かってますから。ほら、行って来て。お願い。」

妻が笑いながらそう言った。
テレビからは黄色いボールを打ち合う音が聞こえ、時折歓声があがっている。

僕はソファから腰を上げるとテレビの横に置いてある自分の鞄から財布を取り出した。玄関に向かう前に台所にいる妻のもとへ行き、僕に気づいた妻が振り向いて何かを言おうとした時、その口を僕の唇で塞いだ。

「もぅ...。」

と言って照れる妻に微笑み、行って来るよ、と伝え玄関に行き、靴べらを使ってまだ慣れない革靴に両足を突っ込んだ後、外へ出た。


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