すべては数直線の上に+詩集
目の前の高橋が語り始めた。
彼の目はしっかりと僕の目を見ている。
僕はそんな高橋をしっかりと見ている。
真っ白なシャツ、インディゴのジーンズ。
高橋は両手を組み、テーブルに肘をついている。
「去年の夏にさ、地下鉄に乗ってたんだ。学校から帰るためにさ。」
そのとき僕らのテーブルの横を男性が通りすぎた。
キャップをかぶり、チェックのシャツに色落ちしたジーンズ。
右手にはギターケースを持っている。有名なミュージシャンなのだろうか?
まさかな、と僕は考える。こんな田舎の街の、しかも客の少ないファストフード店に有名なミュージシャンがいるわけがないのだ。
ストリートミュージシャンってやつなのだろう。
「今通った男の人な、ストリートミュージシャンやってるんだよ」
高橋が言う。
「そんなん見りゃ分かるさ!ギターケースも持ってるしさ…」
「それだけじゃないんだ」
高橋が僕が喋るのを遮る。
「あの人な、彼女さんを病気で亡くしたんだ…。」
「高橋はあの人と知り合いなのか?」
「いや、知り合いではないよ。たださ、この間俺あの人を見たんだよ。見たって言っても直接会ったわけじゃないんだけどな」

僕には高橋の言葉がうまく理解できなかった。



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