失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



また来るから

と担当の刑事は言った

これを続けるのかと思うと

胸が締めつけられるような窒息感と

急な吐き気をもよおし

僕はトイレに駆け込んでいた



便器にしがみつき

吐くものもないのに

からえづきだけが上がってくる

彼に救われたのに

両親にも受け入れてもらったのに

こっちの世界に帰って来れたのに

まだ苦しい

まだ終わらない…?



それはあの事件が

まだ僕の中で終わっていない証拠

兄が脅迫から解放されても

そのあと発作を起こし続けて

長い間立ち直れなかった

それと同じだ

兄が立ち直ったのは

兄の父親に再会したから

逢えたことで兄の父親は

無実だったことを兄が理解し

そして癒され

あの人の策略が明るみに出たのだ




そう

あのときは

あの人が悪魔だったんだ

兄を陥れ

親子を引き離し

二人に死ぬ苦しみを味あわせた

いつも不意によみがえる

目に焼きついて離れない

あの兄の部屋の光景

ロウソクがゆらめく

この世とは思えないあの光景を




その人が今度は僕を救う

片足を失い

半生を失い

警察組織に縛られ

そしてこれから

恋敵の僕の兄を救いに…

あの時のように

再び嫉妬と渇望に焼かれながら?




なんというカルマ

なんて正確な裁き

僕がこの苦しみを

もし理由づけ出来るとしたら

それはたった一つ



彼に償いをしてもらうために

あのときの

僕たち兄弟の苦痛の償いを




ああ

僕はまだ彼を恨んでいるのだろうか

心の底では兄を陥れた憎しみに

震えているのだろうか

僕の彼に対する想いはやはりただの

ストックホルム症候群

なんだろうか



僕は兄を裏切っているのだろうか…

兄を陥れた彼を

まだ好きでいるなんて

でも彼を愛さなければ

僕は憎悪で壊れてしまう



だが兄は

あのとき僕を許してくれた

最後に僕が彼と愛し合えたことで

僕の心が壊れなかった

そのことで

兄は自分の罪悪感を相殺した

だけどそのあと

兄は破滅的な嫉妬の中に…



ごめん…兄貴

やっぱりこんなの許されない

僕はどうしたらいいんだろうか



どうすれば僕は

許されるのだろうか






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