失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

ハードワーク




その夜から彼は

僕の病室に姿を見せなかった

僕の薬物の離脱症状は

(禁断症状を医学的に言うと

離脱症状というらしい)

まだかなり残っていたが

彼の指定した何種類かの錠剤と

カプセルと毎日決まった時間の点滴

(担当医は大量のビタミンB群と

ミネラル…EPA…その他色々

とか言っていたが)

それらを続けているうちに

泣きわめくほどの苦しい離脱症状は

だんだんと日を追うごとに

治まってくるのがわかった


頭の中が少しずつはっきりしてきて

散漫だった集中力も少しづつ戻り

痩せ衰えた身体もゆっくり回復を

見せていた



彼がいないことを除けば

僕の身体と精神は少しずつだが

正気の方向を目指しているのを

自分自身実感していた

ただ彼に逢えない淋しさに

苦しむ夜は耐え難かった



昼には警察の聞き取りがあったが

捜査班に映像まで見られているのが

わかっていたので

僕は半ば開き直ることが出来た

もう吐かないし

トイレで気を失うこともない

残酷なシーンを淡々と話せる自分が

開き直りとはいえ不思議だった




彼が来なくなり4~5日した頃

僕は耐えきれず担当の刑事に

彼の状況を聞いてしまった

そんなことは答えてくれる

わけもなかったが

忙しいことだけは教えてくれた

僕は彼に連絡するすべがない

仕方なくその担当の刑事に

薬が効いていて苦しいのが少しずつ

良くなってると伝えて欲しい

と言った

すると刑事は

それは彼は良く知ってるよ

と言った

なぜですか?と尋ねると

向こうが終わったあと君の担当医と

カンファレンスにここに来ていると

言ってるが…会わないのか?

…と



…来てるんだ

でも顔を見せてはくれない



無理もない

多忙な上に精神的に負担は

絶対に避けるべきだ

責任のある緊張を強いる仕事だ

判断ミスは命取りだろう




僕に関わらない方がいい

そう自分にも言い聞かせた

胸が詰まって涙が出そうになるのを

必死でこらえていた






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