失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

密偵




彼の提案で僕が実家に

一時帰宅することになったのは

桜の散りかけた春の盛りの頃だった



入院からはや1ヶ月余り経つ

病院じゃない環境でストレスが

どのように出るか…または出ないか

離脱症状が環境のプラセボによって

増悪するか…または改善するか

または変化しない…とか

彼の更正プログラムのデータとして

一旦帰宅という実験ではあったが

たまには実家に帰ってみるか?的な

気分的なノリでそれは実行された




久しぶりに外出できる服を着た

彼に付き添われ車に乗りこんだが

この不思議極まりない

なんとも言い難い

変なシチュエーションに

僕はとても複雑な気分だった



彼の運転する車で…実家に…?



よくよく冷静に考えてみたら

ああ…気が遠くなりそうだ

あの過去の経緯を家族が知ったら

…親父に殺される

いまこんな状態になっていること

それ自体が異常事態だ

…と僕は客観的に見てみた

だがこの異常事態がもうひとつの

異常な事態を突破する可能性であり

いま僕たち家族はそれにかけている

と言っても過言ではなかった





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