失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「痛そう…だね」

窓際の席に案内されて座ったあと

僕は彼に話しかけた

「ああ…わかるか…義足の調子が悪

い」

彼は浮かない顔をして答えた

「ちょっと休憩だ…一息入れよう

久しぶりに君とドライブだからな」

彼はウェイターにブレンドを頼んだ

「君は?」

「ああ…ええと…アイスコーヒー」

「夏でもあるまいし…冷たいものは

胃に悪いから温かいものを頼め」

彼は繊細な気の遣いかたをした

「あ…そっか…じゃ…カプチーノ」

「よろしい」

ウェイターが去り彼は少し緩んだ

「日本人とアメリカ人は冷たいもの

を飲み過ぎる…身体に悪いから気を

つけた方が良い」

「うん…わかった」

「素直だな」

「まあ…ね」

病院での彼の投薬テクニックには

かなりの信頼ができた今日この頃

彼のアドバイスは素直に聞こう

と僕は思っている

「可愛いな…君は」

ああーっ…もう…!

平気でそんなこと言うなよ

と…こちらがカアッと赤面してくる

「だって…離脱症状…楽だし…あな

たの判断は正確だし…」

おろおろと説明する

「ヨーロッパじゃビールだってぬる

いからな…イギリスに長くいたから

日本的な悪習は抜けた…イギリス的

悪習も身についたがね」

再びウェイターが現れ

注文したものをサーブしていった

彼は砂糖もミルクも無しで

熱いコーヒーをそのまま飲んだ





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