失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




父はすでに酔っていた

僕は帰ると上着も脱がずに

父の前に立った

「興信所…なんでやめたの?」

「あそこはダメだ…新しいところに

変えた…今日契約してきた」

「僕に…相談してくれないわけ?」

「お前だって分かるだろ?…なんの

成果もないなんて…どうかしてるぜ

最初に調子の良いこと言いやがって

…まあ…俺たちは初めてだから仕方

ねぇとは思うけど…」
 
「…僕は…一人で積み上げてきたん

だよ…担当の人はいい人だったし

成果がないって…分かるよ…でも

手掛かりがほんとにないんだよ!

プロの意見でも『これは忍耐が要る

かもしれない』って」

「あのなぁ…向こうはこっちが素人

だって思ってんだよ…お前には俺の

替わりに動いてもらってて悪いって

思ってるよ…だけどな…これはひど

いだろ…」

父の目が僕ではなく

遠くを見ていた

その目が今まで見たこともないほど

虚ろだったので

僕はゾッとした


父は酔っていた

どれだけ飲んだかはよくわからない

ただその目の虚ろさは

酒のせいではないと思った



僕は怒りのやり場を失った

だがこの怒りが収まる様子は

全くなかった



「もう…いい…わかった」

「おい…」




父の制止を無視して

僕はその足で実家を飛び出した






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