失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「…生き…て…た」

僕はひとりでに囁いていた



兄は生きていた

記憶をなくしても

見知らぬ土地で遠く離れていても

兄は生きて微笑んでいた


「生きて…る…兄貴」




それだけで

もうそれだけで

それだけでいい




「生きてる…生きてる…」



生きていてくれる

もう…それだけで…いい




「生きて…た…」

涙がポロポロ落ちて

泣きながら

いつの間にか笑ってた

「…生きてた」



記憶がなくても…?

僕のことなど覚えてなくても?



ああ…かまわないよ

兄貴

生きていてくれたんだ

こんな辛い中で

微笑んで



かまわない

この写真みたら

不思議にそう思える

なぜだろう




陰りがないんだ

ずっと持っていたあの

罪の意識の片鱗すら





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