失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



レポート用紙を前に

曖昧な記憶をたどっていった

誰かのためになるとはいっても

あの頃の自分を思い出すのは苦痛だ

僕が酒を飲み始めたのは

いつからだったんだろうか?

飲み過ぎて学校に遅刻したり

兄を断罪する不良神父の幻覚に

酒ビンを投げつけたりしたのは

もうアル中になってからだった?

あれ…そのときはもう

あの売人にヤラれたあとだっけ?

ヤツに忠告されたのは

アルコールじゃなくて

あいつと関わるなって言われたよな



ダメだ…

この時期の記憶は頭の中で

出来事が錯綜してる

ほんとに書きながらじゃないと

ちゃんと思い出せないみたいだ



もらったレポート用紙の真ん中に

"教会"とだけ書いてみた

ここが酒とクスリの境目だからだ

紙にそう書いて眺めているうちに

僕は不意に大事なことを思い出した



ああ…そうだった…



これがすぐに出てこなかったことが

ある意味ショックだった

実家から酒ビンをつかんで

アパートに逃げた日…



興信所を親父に勝手に変えられた

あの日のことを



これ…彼に話したかな

ヤク中になってからあとの記憶は

もっと曖昧で前後が混沌としてる

話したような話してないような…?

彼に直接訊いてみる以外に

僕には判断出来なかった





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