失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

透明な光





「あなたの弟さんです」

ベッドの上に半身を起こして

座ってる兄にむかって

彼が僕のことをそう言って

紹介してくれてるのを

茫然としたまま聞いてた

写真と同じで髪が長くなっていた

その顔は以前より母に似ていた

そう…母に似るってことは

あの人の面影までたたえて



しゃべれない僕の代わりに

彼が兄に尋ねた

「見覚えは…?」

微笑みながら

兄は首を横に振った

「ごめんなさい…でも…ありがとう

来てくれて」



僕は少しうつむいた

そう…それで…いい…

同時に涙があふれた

ほんとに…覚えてないんだね

安堵と絶望と僕の中で両方

うねりながら加速していった



兄貴…

心の中で叫びそうになりながら

僕は口を手のひらで押さえた



「大丈夫か?」

彼が僕の肩に手を置く

無言で頷く僕に兄が話しかけた

「ごめんね…悲しませて」



それを聞いて僕は崩れるように

床にしゃがみこんだ

その言葉が上辺だけの慰めなら

僕は耐えられたのに

それは兄のいまの心の中の気持ちを

そのまま顕したものだったから



変わらない

ぜんぜん変わらないんだね

やさしくて

自分を責めて



でもあの翳りだけが

どこかに消えてしまっていて





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