失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

久遠の秋




後日僕は整形の先生から

兄が自分では話せないと言った

例の話を聞いた

兄が変質者の玩具になって

性的な暴行を受けていたこと

しかもそれが担当医の仕業で

その担当医は兄の腫瘍の

CT写真を隠蔽してたこと



こんなことが

あったなんて

僕は信じがたかった



兄は記憶のない苦しみを

違う苦しみで覆い隠そうとした

だが苦しみは変わることなく

そのことに向かい合うことが

兄の心をやがて解放し

いまの平穏な境地へ導いたと



そんなふうに整形の若い先生は

僕に語ってくれた



「私はね…君のお兄さんを医療者と

して救えなかった…それなのに彼は

私に感謝をくれた…」



この先生がいなかったら

兄は海で自殺していた

その話を聞いて

僕もこの先生にたいして

感謝があふれて止まらなかった



「感謝されても非力な自分が余

計に際立ってしまうようで…私

はどうも…素直に受け取れない

んだ」






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