失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

ターミナル





こんなことになるなんて

10日前には夢にも思わなかった

あの部屋がなくなったとたんに

新しい部屋が用意された

質量保存の法則ってあるけど

賃貸保存の法則なんてないだろ?



新しい生活…二人の

兄が望んだのはそれだった



経緯を両親にかいつまんで話す

もちろん話せる部分だけ

兄が僕に看取って欲しいと…

兄からも直接両親に電話があった

母は安心したみたいだった



兄の病院から遠くない街なかの

マンスリーマンションの契約

院長の知り合いの不動産屋で

近い物件を紹介してもらった

病院へは外来で通うことになった

契約は電話と書面で済む

実家でそれらを全部済ませた

父が保証人になってくれた



兄が車椅子だからなるべくなら

バリアフリーで1階が希望

スロープ付きの1階の角部屋が

ほどなく見つかる…奇跡だ

マンスリーマンションだから

家具や電化製品を買うこともない



「軍資金はあるから心配しないでね

…結構持ってるんだよ…君に口座を

作ってもらうよ…管理して欲しい」



どこから来たのかと尋ねた

小切手を見せてもらった

院長の名義だった

「あの事件の口止め料」

「マジで?」

「うん…要らないって言ったんだけ

どね…でもこんな風に役に立つんだ

ね…ところでこれってどうやったら

現金になるんだろう?」

「…わかった…調べとく」

「それは頼もしい…よろしくね」

とりあえず小切手に書いてある

銀行に行けば教えてくれるよね?



不案内な街で銀行を探す

地図を買った







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