失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




僕に気取られないような速度で

兄は向こうに行く準備をしている

密やかに

でも確実に

僕を驚かせることなく

それはいつの間にか暮れた

夕方のようでもあった

そうしている間に

彼はほとんど昏睡状態になっていた

僕はそれを泣くこともなかった

静かな時間と感情が

淡々と過ぎていった



そのころから母は僕と一緒に

彼と住んでいたマンションに

暮らすことになっていた

淡々と過ぎる時間の中に

母も静かに加わった

僕と母で交代で彼を看るようになり

母の作ってくれる手料理を

僕も食べられるようになった

食欲だけが日々なくなっていた時に

母は僕のことも看ていたのだろう

そこに気づいて僕は

本当の母の強さを見た気がした







< 498 / 514 >

この作品をシェア

pagetop