失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




その時いつもは放任な親父が

珍しく兄を心配し始めた

本能的になにか感じていたらしく

母に研究所に連絡を入れさせた

いつ頃出張が終わるのか?

どこに出掛けたのか?

兄が出掛けたであろう日から

1週間くらいした日のことだった



研究所は驚いて母に逆に尋ねた

と言う

まさか…だって具合が悪いので

しばらく休むと研究所にメールが…

そのメールも

兄のアパートのパソコンからの

送信だった


兄が出すはずのないメール


母は電話口で震えが止まらず

その場に座りこんでしまったという

母は大学院にすぐに駆け込み

担当の教授に詳しく事情を聞いたが

スタッフの誰も兄の消息を

知らなかった

母は合鍵を持ってその足で

兄のアパートに向かった



だが兄は

そこには居なかった



学校にいた僕に珍しく

母から電話がかかって来たのは

その日の夕方だった

兄のアパートからの

電話だった








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