失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



そんなある日

授業が終わると

珍しく"ヤツ"が僕のクラスの前で

待っていた

「よぉ~」

浮かない顔つき

僕もおなじだけど

「あ…なに?」

「ちょっと」

付き合え…みたいな手つきをした

それが思ったより有無を言わさない

感じだったので

なにも言わず黙って付いて行った




たまに一緒に入るチェーンのカフェ

二階がボックスになっていて

話しやすかった

ヤツは黙って僕の少し先を歩き

そこに入った




「たまたまさ…先輩の友達のライブ

に誘われて行ったんだよな…それが

たまたまお前の勤め先でさ」

「なんだ…僕のいない時に?」

ヤツは機嫌の悪そうな顔で

吐き捨てるように言った

「いたよ…あの男と」

「え…」

見られた…のか?

「あいつは…やめろ」

「なんでお前知ってんの?」

「オレじゃない…先輩だ」

「先輩…?」

「あいつはあそこらへんが縄張りの

プッシャーだって」

「プッシャー…って」

「ヤクの売人だよ」



…ああ

そうなんだ

それでか

「そう…」

僕があまりにも

気のない返事をしたので

ヤツは声をあらげた

「知ってたのかよ!」

「知らないよ…」

「あのライブハウスに出る奴らが

たまにあいつからクスリ買ってるん

だよ…オレの先輩の友達が教えてく

れなかったら…お前シャブ漬けだ

ぞ?…わかってんのかよ」

シャブ…

覚醒剤なんだ

「お前…なんでそいつといるんだ」

ヤツは今までにない口調で

僕に詰問した

「あんな…気持ち悪い…腰なんか

抱かれて」

僕はヤツに説明する気力はなかった






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