失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「あの人も亡くなったのよ…3年前

…だったかな…」

「そう…だったのか」

従兄弟が不意を突かれたように

そう言って言葉が途切れた

「ごめんね…あなたに知らせなくて

…いろいろあって…」

「…いいよ…そんなこともあるよ」

「亡くなる前に…会いたかった?」

今まで聞けなかったことを

母は聞いたんだなと思った

「いいや…アイツとは…もう切れて

た…俺にとってはあの頃の思い出の

中にしか…アイツはいないんだ」

「そう…そうね…」

寂しそうに母は呟いた

「すれ違い過ぎたよな…でも」

「でも?」

「夢のように楽しかった…あの日々

は俺の中で特別なんだ…今でも」

「そうね…それは私もよ」



僕はそっと目を閉じた

若い母たちが目の前に浮かんだ

夢の名残りが僕の前を

淋しげに通りすぎていった

この特別な日々がすべてを

僕までもを産み出し

そして去っていった

兄の抜け殻が燃えている間

彼らの夢の抜け殻も

風に舞い紛れて消えていった






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