失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



だが兄が生きていてさえくれたら

僕は生きなくてはならない

なんとしても



そして生きて

ここらか脱出しなければならない

ヤク中の病院に入れられようが

刑務所送りになろうが

父と母に今の僕を知られようとも



僕は生き延びなければならない

絶対に





自分の弱さを心底恨んだ



ごめんなさい



こんなところで死にかけていて

ごめん

兄貴みたいに

我慢強くなくて



ごめん

電話に出られなくて




朝から嗚咽して

なぜ…こん…な…

こんなところで…死にかけてい…て



ごめん…なさい

兄貴…

探してあげられない

兄貴を…探して

あげられな…い…





僕が弱かったばっかりに

こんな奈落に…落ちて




取り返しがつかない…よ…

深過ぎて…出口が無くて…

戻って…行け…な…い



「ううああああああああぁぁぁ!」



気が狂う

叫ばずにいられない

だけどこの声は

どこにも届かない

のどが裂けるほど叫んでも

この部屋の外には

何も聞こえない





だがある日

僕は

あることをずっと思っていることに

突然気づいた



ああ…そ…んな

ごめんなさい



頭の中に男の姿を思いながら

僕は顔を両手でおおい

ベッドから動けなかった



ごめんね

ごめん…ね…

ごめんね




僕…あんたを

殺しちゃうよ




僕はこの日

殺意という感情を

自分の中に唐突に見つけた

あまりにはっきりと

たぶんそれは

あまりにためらいのない

明確な

明確過ぎて

僕自身にも

制御不能な





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