To.カノンを奏でる君
「葉山さんなんて大嫌い。葉山さんがいなかったら、祥ちゃんともいつも通りでいられたのにっ」

「うん」

「何で邪魔するのっ。私は幼なじみでいたいだけなのに!」

「うん」

「嫌い。大嫌い!」


 唇を噛み、俯く花音を直樹はそっと抱き締めた。


「少しは楽になった?」


 直樹の優しい声に、花音は小さく頷いた。


「溜め込むのはやめよーね。また倒れるわよ」


 こくんと頷く花音。


「良い子でいるのはつらいでしょ。たまには吐きなさいよ」

「……ありがと」


 大分楽そうになった花音の声に、直樹はほっと一息吐いた。

 ちょうど祥多が戻って来る。花音を抱き締めている直樹と目が合い、祥多はあからさまに嫌そうな顔をした。

 直樹は苦笑して花音を放す。


「で、お母様は何て?」


 茶化すように直樹は尋ねた。


 冷たい風がヒュウッと吹き抜ける。


「迎えに来るって。商店街の入り口で待ってろって」

「あらそう。じゃあ早く行きなさんな。ほら、ノンノンも」

「あ、うん……?」

「直。お前も送ってやるよ」

「せっかくの申し出ですが、丁重にお断りさせて頂きます」


 下ろしていたカバンを持ち上げ、祥多の隣に立つ花音。祥多の誘いに断った直樹を不思議そうに見つめる。


「ほらほら、早く行きなさんな」


 直樹は犬を追い払うような仕草で言う。


「ったく」


 祥多は溜め息を吐き、直樹に言った。


「お前な、こういう時くらい素直に受けろよ。可愛げねぇな」

「はいはい、どーせ可愛げないですよー」

「おいコラ、直!」

「煩いわね。吠えるんじゃないわよ。今日は歩いて帰る気分なの、邪魔しないでちょうだい」


 キッと睨まれ、祥多は怯んだ。花音はハラハラしながら成り行きを見守っている。
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