To.カノンを奏でる君
 花音を愛しいと思えば思うほど、己に課せられた運命を呪った。裏返せばそれは、この上なく生きたいと願っていた証だったのだ。

 ポタポタとシーツの上に雫が落ちては染み込み、痕だけを残す。

 声を上げないようにと気を遣うあまり、零れる鳴咽。


「くそ……くそぉぉ」


 みっともないほど顔をグシャグシャにして祥多は泣いた。

 泣けば泣くほど、胸の痛みは増した。壊れそうな心が自己を主張するかのように悲鳴を上げる。


「あぁっ……うあ゙ぁっ!」


 ドン、ドン、とベッドに拳を振り下ろす。強く打ちつけて、手の痛みが頭に届くと心の痛みが和らぐ気がした。


 そうして徐々に落ち着きを取り戻す。片手で顔を覆い、大きく深呼吸を繰り返す。

 これ以上心を乱してしまえば、発作を引き起こしてしまう可能性がある。

 平生の自分を取り戻した祥多はその事を痛感し、落ち着こうと尚更努力した。


「はぁ、はぁ……」


(みっともねぇ。花音が来る前にどうにかしねぇと)


 パジャマで涙を拭い、ベッドから降りた。ゆっくりと洗面所に向かう。


 顔を洗い、落ち着きを取り戻した祥多はベッドに戻り、横たわった。


「ふー……」


 横たわった体が重い鉛のようで、だるくて堪らない。


 卓上にある時計を見、花音が来るまでまだ時間があるだろうと踏んだ祥多は少し休む事にした。


 閉じた瞼が、重い。


 そういえばオレンジジュースを冷蔵庫に置いてあったかと思い、確認しようと瞼を開けようとしたが叶わない。そのまま祥多は眠りの中に落ちていった。
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