To.カノンを奏でる君
 驚きを隠せない祥多。顔面蒼白になっている花音。怒りに眉を吊り上げる直樹。

 三人の感情を一身に受け、美香子は「しまった」と思った。

 キスをするつもりなど…なかったというのに。


 立ち尽くす美香子に、直樹が近寄った。怒っている事が嫌でも分かる。


「な、何よ」


 明らかに美香子が悪いというのに、美香子はつい条件反射で睨み返した。

 直樹は何も言わず侮蔑に似た視線を美香子に向け、それから祥多を見つめた。

 祥多は何が起こっているのか分からないという風に動揺している。


「な、直…?」


 祥多が弱々しく直樹の名を呼ぶと、直樹は思いがけない行動に出た。

 自らの唇を祥多の唇に押しつけたのだ。


 一同、唖然。


 花音も美香子も開いた口が塞がらない状態で、祥多はやがて失神してしまいそうなほどだった。

 祥多を放すと、直樹は入り口の方に立っている花音の方へ歩み寄った。花音は唖然としたままに直樹を見つめる。


「な……んん?!」


 直ちゃんと呼ぼうとした唇を、花音は直樹によって塞がれた。

 初めての経験で初めてのキスである花音は硬直した。驚いたままの美香子に、この上ない衝撃を受けた祥多。

 当然だ。自分の唇を奪われただけでなく、大切な少女の唇までも奪われてしまったのだ。

 さすがの祥多も灰となって風化してしまいそうになる。
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