To.カノンを奏でる君
「私も…、祥ちゃんに逢えなくなるのが一番怖い」


 嗚咽を漏らしながら、花音は祥多の背中に回した手に力を込めた。

 強く抱き締めていないとどこかへ行ってしまいそうで、花音は祥多の体から伝わる熱にまだ大丈夫だと安心する。


「………花音」

「うん…?」

「そろそろ放してもいいか?」

「ダメ」


 珍しくワガママを言って祥多を困らせる花音。

 祥多は嬉しく思いながら、思いながらしかし、それは聞けないと判断を下す。


「頼みます。花音さん」

「イヤ」


 自分から抱き締めておいてなんだが、そろそろ頭も冷えて来て、別の方向に気を取られているのだ。

 それは何も祥多が悪いのではなく、健全な男子なら当然の事である。


「かーのーんー」

「ダメ」

「花音ちゃーん」

「イヤ」


 頑として譲らない花音。本当に危ないと真っ赤になる祥多。


「祥ちゃん」

「ぅわはい!」


 桃色の方に進んで行く脳内をどうにかしようと格闘していた祥多は、妙な返事を返してしまった。動揺を隠しきれずにいる。


「お願いだから、置いてかないでね」

「……え?」

「祥ちゃんいないと寂しいよぉ…。私、祥ちゃんいないとダメだよ…っ」


 あまりに可愛い事を言う花音。祥多は愛しく想う。

 大切な少女に必要と言われた事が嬉しくて、温かくて泣きそうになった。


(俺だけが依存してると思ってた)


 そう、祥多だけがすがるように花音を縛っていると思っていた。
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