To.カノンを奏でる君



 読み終えた花音は、手紙を大切そうに抱えた。それから、声も上げずに涙を流す。


「幸せだったよ……出逢えて幸せだったよ、私」


 この声が届けばいいと、花音は思う。

 後悔などしていない。未だに祥多を想っている事が何よりもの証拠。


「草薙」


 聴き慣れた男子の声に、花音は慌てて涙を拭った。

 便箋を手早く封筒に戻す。


「珍しいな。泣いてたのか?」


 キュッキュと室内に入って来る音がして、慌てて振り返る。


「早河君には関係ないでしょ」


 彼、早河はいつもの花音に安堵して笑った。

 早河は花音と三年間も同じクラスで腐れ縁だった。仲も良く、学級委員として協力して来た、謂わば同志だ。


「これで最後だってゆーのに冷たいなー」

「なーにが最後よ! 大学も同じでしょ」

「そうそう、追っかけで決めたんだよ」

「なっ……バカじゃないの?」


 花音は戸締まりをしながら呆れて早河を見る。


「大真面目だよ」

「はいはい。あ、花びら拾うの手伝って」

「ちゃんと聞けよ」


 と、ブツブツ言いながらも花音に従い、花びらを拾う早河。


「拾ってどーすんの」

「んー? 内緒」

「押し花か何か?」

「だから内緒」


 あくまでマイペースな花音に、早河は溜め息を吐く。


「お前さ、たまに分かんなくなるよな」

「え? 何が?」

「何て言ったらいいか分かんねーけど、いきなり遠くなるってゆーか」

「はあ?」
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