To.カノンを奏でる君
「お前ら、誰なんだ?」


 花音と直樹を見つめて尋ねる祥多の姿に、二人は驚きを隠せなかった。


 幼なじみである自分達に向かって今更そんな質問を向るとは、思ってもみなかった。


「ちょ……タータン、何の冗談よ?」

「冗談?」


 本気で首を傾げる祥多に、二人は唖然とした。


 まさかと、思った。しかし、有り得ないとも思った。

 この状態は、あれによく似ている。ドラマや小説や漫画などでよくある──。


「花音ちゃん」


 扉の方からした声は、美香子の声だった。

 二人はすがるように振り向き、目で状況説明を請う。


 美香子の方も元気はなく、深い溜め息を吐いて、二人の方へ歩み寄った。


「日常的な障害はないの。でもね、自分が誰なのか、私達が誰なのかが全く分からない」

「記憶……喪失……?」

「うん。手術の時に一度心停止したでしょ。その衝撃なんじゃないかって、主治医の先生はおっしゃってた」

「嘘だ」

「私もそう思いたい。でも、事実なの。もしかしたら、花音ちゃんの事は覚えているかもって思ったけど……やっぱりダメなんだね」


 そう言って美香子は祥多と真正面から対峙する。


「祥多君。花音ちゃんの事も覚えてないの?」

「花、音?」

「とても大切に想ってたじゃない。私に見向きもしないくらいまっすぐに想ってたじゃない。忘れちゃったの?」

「想ってた……」


 祥多は呟き、頭を押さえる。美香子の言葉の意味を思い出そうとしている。
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