To.カノンを奏でる君
「落ち着いた?」


 こくっと祥多は頷く。

 直樹は祥多と向かい合うように座り、じっと祥多を見つめた。


 気まずそうに、やがて祥多は口を開いた。


「この前は、悪かった」

「あら、何の事? 謝るような悪い事したの、貴方」


 おどけた言い方をする直樹に、祥多は尚更、罪悪感を感じた。


「ほんと、ごめん。お前は心配して助言してくれたのに、あんな風に怒鳴っちまって」

「いいのよ、アタシもお節介だったんだから」

「ごめんな……」


 申し訳なさそうに力なく頭を下げた祥多に、直樹は優しく声をかける。


「──何か、あった?」


 すぐには答えなかった。

 直樹は、祥多が言ってくれるのをじっと待つ。


 二つに結わえた髪をほどいて櫛を通していると、祥多はやっと顔を上げた。

 泣きそうでいて、泣けない。そんな顔。

 直樹は瞳を曇らせた。そんな祥多を見るのは、三年振り。

 あの頃の事を切々と思い出す。


「花音と早河が……キス、してた」

「えっ?」

「やっぱりアイツら、付き合ってんだな…。めちゃくちゃ良い雰囲気だったよ。早河はさ、めちゃくちゃ大事に花音を抱き締めてた」

「タータン……」


 何かの間違いよ、なんて言えなかった。花音を焚きつけたのは自分なのだ。

 それでもしかすると、早河と付き合い始めたかもしれない。


 否定する事が出来なかった。


 花音からはそんな事は聞いていないので、まさかとは思ったが、付き合い始めたのがこの数日間の内だとしたら報告がなくてもおかしくはない。

 近々報告しようと思っている頃だろう。
< 311 / 346 >

この作品をシェア

pagetop