To.カノンを奏でる君
「あ、言い忘れてた」


 祥多は思い出したように言う。三人の視線が一度に祥多の元に集まった。

 祥多はにやりと笑う。


「朗報だぜ。俺、来週から一週間だけ学校通わせてもらえる事になった」

「え……えぇ?! 本当なの、祥ちゃん!」

「おう。やっと許可もらったんだぜ」


 嬉しそうに笑う祥多に、直樹も満面の笑みを浮かべる。


「やったわね、タータン!」

「サンキュ、直」


 はしゃぐ三人に対し、美香子は一人取り残される。


(学校に通えるって、そんなにはしゃぐもんだっけ?)


 三人が喜んでいる事に不思議がっていると、花音が美香子に言った。


「祥ちゃんね、中学校に一日も通った事がないんだ。中学校入る前に、長く入院する事になってね」


(あぁ、だから……)


葉山は妙に納得する。

 中学校に一日も通った事がないのなら、中学校で味わえる楽しさも平凡さも分からない。


 教えられて、美香子は自分が部外者だという事を強く感じた。

 思えば祥多の病名も知らない。知らない事だらけだ。


(まただ……)


 自分だけ異空間にいるような疎外感。美香子はそれをとても嫌っていた。

 弟の事で、嫌というほどに感じて来たからだ。


(居場所……私に居場所はないの?)


 美香子は泣きたい気持ちを抑え、俯く。
< 90 / 346 >

この作品をシェア

pagetop