『A』
 
「私の主も…
“萌えるメイドが欲しい!”と言ってましたし、ちょうどいい
どこか帰るところがある…というのなら、話は別ですけど…」

「………
帰るトコなんて…ない」

「でしたら…」
「無理だよ!」

「っ!」

言葉を遮られたこともだが、少女が声を大にしたことに、男は驚きを隠せなかった。

「無理だよ………」

少女は一度俯き、そして、男とは反対方向の、遠い遠い空を見上げた。

「………何故?」

「私は…今の生き方しか知らないもの…
人を殺して、その報酬を糧に生きる…
私は…戦場でしか生きられないの」

「そんなことありません!
一体…一体何があったんですか?
その若さでそんなふうになるなんて、貴女の過去は…一体…」

「………」

 
「………No.00679」

「………え?」

「…私の名前
前に聞いてきたでしょ?」
少女は、空から男の瞳へと、目を移す。

「名前?…今のが?」

「うん、今までずっとこう呼ばれてたから…
名前って言ったら、やっぱこれかな」

「そんな…
それは……それは名前じゃない」

「……そうだね
変、だよね…
普通じゃ…ないよね」

少女は俯き、右手で己のシャツの左胸をわしづかむ。

「でも、私にとっては変じゃないの
だって私は、工場で作られた製品の一つだから…」

「………製、品?
…貴女は…一体……?」



「………
うん、タカさんになら私、話してもいいよ
私の昔話
まぁ、そんなに昔でもないんだけどね…」

先程落としたハンバーガー(のようなもの)をくずかごに投げ入れる少女。

首だけで空を見上げながら、ポツリ…ポツリと、ほんの少しずつだが。

己の過去を思い出し、そして、少女は語り出した…。

………………

………
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