お願い、抱きしめて
昔の初恋
二人きりの図書室。
棚に並んだ本を手に取り彼女はページを楽しそうにめくる。
隣に座るオレは退屈そうに「ムスッ」とした表情でその人を見た。
黒く胸まで伸びた髪が内側に、くるんとしてて。肩がちょっとぶつかると甘い匂いがする。
ドキドキした心臓の鼓動が早くて顔も見れない。
「将来の夢ってある?」
「……声優」
鳴り止まない音を少し抑え、咄嗟の答え。適当に答えたのに彼女は優しく微笑んで
「音也くんなら絶対なれるよ。だって、素敵な声してるから」
ピンク色の小さい唇を動かす。
「そっちは何になりたいの?」
すると彼女は、零れそうな笑顔でオレに言ったんだ。
「大好きな人のお嫁さん」
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