お願い、抱きしめて
昔の初恋

二人きりの図書室。


棚に並んだ本を手に取り彼女はページを楽しそうにめくる。


隣に座るオレは退屈そうに「ムスッ」とした表情でその人を見た。


黒く胸まで伸びた髪が内側に、くるんとしてて。肩がちょっとぶつかると甘い匂いがする。


ドキドキした心臓の鼓動が早くて顔も見れない。



「将来の夢ってある?」


「……声優」



鳴り止まない音を少し抑え、咄嗟の答え。適当に答えたのに彼女は優しく微笑んで



「音也くんなら絶対なれるよ。だって、素敵な声してるから」



ピンク色の小さい唇を動かす。



「そっちは何になりたいの?」



すると彼女は、零れそうな笑顔でオレに言ったんだ。



「大好きな人のお嫁さん」


< 1 / 201 >

この作品をシェア

pagetop