お願い、抱きしめて
それでも、まだ残る菜子さんの匂いや、重なりそうだった唇との間の空気が胸を、きゅっとさせる。
「ごめんなさい。…キスするつもり、なかったから」
「大丈夫、だよ。キスするのかと思って、ドキドキしちゃった」
顔を上げると目の前で、ピンク色の唇をゆっくり動かし、恥じらいながら時折目をそらしたり、合わせたりする菜子さん。
オレにまで、ドキドキが伝染。それから、自然と頬に手が伸びる。
「音也、くん?」
思ってた以上に白くて、柔らかい頬。赤みを帯びた頬に触れる指が、微かに震えた。
触ってる感覚がないほどに──…