お願い、抱きしめて

丁寧に資料の中には、監督と音響監督のコメント付き。


【声の質は誰にも劣っておらず、キャラにぴったりだった。だが、まだ足りない。台詞の言い回し、感情移入がもう少し欲しがった。】【まだ若いのに、仕事への熱意やキャラとのシンクロ率は一番伝わる。戦闘シーンが多く見せ場なので、共演者との掛け合いが必要な部分になると、足りない。声はハマってました。これから期待。】


苦い涙の味は、さらに苦味を増す。こんなの見たくなくて、元あった場所へ戻した。


「あの時こうしてたら」って考える度に、時間を巻き戻したくて、悔しくて、粉々な気持ちを拾おうとしても、拾えない。


逃げるように、事務所から出る。すれ違い間際に泉と会った。


何かを言いたそうな顔をしてたけど、オレの心情を察してか言葉を飲み込んでた。


情けなくて、どうすればいいのかわからなくて。


逃げ道ばっか探してる。恋も仕事も…。


オレの「声優でいたい」って夢は、まだ始まったばかりなのに。